映画「たった一度の歌」 撮影報告

November 27, 2017

2017年4月、映画『たった一度の歌』の撮影が行われました。この映画は埼玉県本庄市を舞台にした映画で、この地に実在する『農業合唱団』を題材に考えた完全オリジナル作品です。この町にまつわる様々な立場の男四人の視点から、町出身のスターと農業合唱団がコラボレーションするライブの日の前後を描いています。私がカメラマンの猪本さんに映画の撮影をお願いするのは今回が初めてでした。複雑な構成の上に、音楽映画であり、さらに、ものまね歌手の主人公・紀彦と、町出身のスター・後藤田を高橋和也さんが二役演じるという難しい作品だったため、私にとっては大きな挑戦でした。悩みながら作っている私の横で、猪本さんはいつも静かにしているのに、一言ぼそっと私に言うことがとても鋭く、いつも私をハッとさせてくれました。「紀彦と後藤田、どっちを撮ってるんだかわからなくなりそうだから、差をつけてほしい」。こんな猪本さんの一言が、「スターの後藤田」と、それをモノマネする「紀彦扮する偽物の後藤田」をどう表現していくか深く考えるきっかけになりました。演じるのは同じ俳優、風貌も一緒。なのに、それが違う人物に見えなければいけない……。これはいったいどうすればいいんだ? しかも、この偽物は本物そっくりという設定。わかりやすい違いを作ってしまうと、今度はストーリー自体が成立しなくなってしまう。我ながらとんでもない脚本を書いてしまったと思いながらも、その無理難題に高橋和也さんはもの凄い意気込みで挑戦してくれました。髪型、衣裳、細かいディティールで「本物」と「偽物」の工夫もしましたが、何よりもすごいのは、この高橋さんの演技です。彼の渾身の演技が紀彦と後藤田をまったくの別人に見せているのです。そして、その高橋さんの冴え渡る姿を見事に切り取って下さったのが猪本さんでした。圧巻の画のひとつは、紀彦が後藤田に扮して農業合唱団と練習するなかで、町の若者・ヨージが、紀彦と親友の思い出の曲を休憩時間に突然歌いだす(紀彦の思い出深い歌とは知らずに)場面。そのシーンで紀彦はふいをつかれたように、歌を聞いて思わず涙するのですが、猪本さんは、その紀彦の心情をカメラで見事に捉えています。どこを最大のヨリにするかという猪本さんのこだわりがこの場面でもよく現れていて、それが紀彦の感情の高まりにフィットし、感動させる画になりました。

今回、猪本さんが選んでくれたのは、バリカムとα7S。通常は2カメ体制でしたが、クライマックスのライブシーンの二日間ではGH4なども使用し、全部で四台のカメラで撮影しました。この作品は、クライマックスのライブに至るまで、同じ出来事を四人の視点から何度も描いて、それぞれの心情が重層的に積み重ねていく構造になっています。

その構造は、ポリフォニーという複数のパートを重ねてハーモニーを生み出す音楽の形態からヒントを得ています。一人一人のまったく異なる思いが積み重なって生まれるライブシーンは、ドラマ的にも、音楽的にも圧巻のシーンになりました。このライブシーンに至るまでの繊細な描写が、クライマックスで感動を生めるかどうかの重要な鍵となります。実は、同じ出来事を描きながらも、それぞれのパートにおける主になる人物の心情を強調するために、大半は芝居を変えて撮影しています。猪本さんは、撮影前に、各カメラの特性も生かして、それぞれの心情を浮き彫りにできるように撮りたいと言って下さいました。その言葉の通り、作品の随所に猪本さんの工夫と遊び心が溢れていて、それもこの映画の見所のひとつになっています。最もわかりやすい例をあげると、スター後藤田に扮する紀彦が、農業合唱団のメンバー・ヨージから「人が感動する歌を歌うには何が大事だと思いますか?」と問われるシーンがあります。最初にそのシーンが登場するときには、物々しい雰囲気の後藤田に対して憧れと緊張で声を上ずらせながらヨージが必死にアピールしようとする心情が描かれますが、それに対して後半、再びそのシーンが登場したときには、実は紀彦が偽物だとバレやしないかとヒヤヒヤしているなかで突然、ヨージに難しい質問をされて焦る心情を描いています。猪本さんは、そのシーンの紀彦の演技を見て、突発的にこう言いました。

「紀彦のサングラスごしのヨージを撮りたい」と。そして、カメラのレンズ前に紀彦のサングラスをつけて、紀彦を疑っているかのように見えるヨージの姿を映し出しました。猪本さんは計算しつつも現場のライブ感でどんどんアイディアをだして下さり、その画を見た俳優も俄然テンションがあがってくる、そんな相乗効果の積み重ねがこの映画に躍動的な面白さを生み出していったと思います。

そんなわけで、構成が複雑な映画ではありますが、全体を貫くのは、ふたりの男の友情です。

高校時代の親友で、一緒にフォークデュオをやっていた紀彦と肇は、紀彦が歌手デビューのチャンスを掴んだことをきっかけに町を出て行くことになり、別々の人生を歩みます。そんなふたりが30年ぶりに再会する物語が主軸になっています。グレーディング時には、猪本さんと話合い、現代の方の彩度を落として、逆に過去は色彩豊かなに仕上げました。これにより、ふたりにとって忘れられない過去の尊い原点を浮かび上がらせることができたと思います。この回想場面では、ギターを弾きながら歌を歌う場面が多くでてくるのですが、あえてそこに音はつけず、スローモーションで断片的なイメージの世界のように撮りました。猪本さんはここでも、工夫を凝らし、シフトレンズを使用した撮影を提案して下さいました。オープニングで使用したこのシフトレンズの画は、現在の本人達の姿が見える前の淡い青春の記憶として浮かび上がり、作品世界のなかへ誘う役割を果たしていると思います。これらの回想シーンのなかで象徴的に登場するのが「川」です。この「川」は映画のなかに登場する肇が紀彦にプレゼントした思い出の曲のなかでも歌われていて、若い頃に信じ続けていた「永遠」を意味しています。歌のタイトルは『永遠の川』。脚本執筆段階において、本庄を取材した際に、町の人に「昔から変わらない風景は何か?」という質問を投げかけると「川」と答える方が多かったので、映画のなかで象徴的に使いたいと考えるようになりました。若い頃は、色んなものが永遠に続くように思えていたけれど、年を取るとやがて、ひとつひとつ日々失って行くことに気づく瞬間が誰にでも訪れると思います。そのことと同じように、世の中に存在するものは日々変わり続け、当たり前に存在し続けるものなんてひとつもないんだということにいつしかたどり着く。そんな気づきや喪失感をこの映画のなかでも「川」を使って描きたいと考えました。ストーリーのなかに具体的に落とし込むために作ったシーンは、

大人になった紀彦と肇が再会して、高校時代によく訪れた川を通りがかるのですが、そこには水がなく、愕然とする……といった場面です。このシーンを撮影するにも一工夫が必要でした。過去の豊かな水が流れる川と、現在の水のない川。このふたつを表現するために、回想と現在を別々の川で、似たようなアングルを狙い、あたかも同じ場所のように見せて撮るという試みをしました。

 そして、この映画の撮影のなかでもっとも、大変だったのは、二日間に渡るライブのシーンです。紀彦扮する偽物の後藤田と本物の後藤田がついに出会い、大きなどよめきが起こります。その混乱のなか、ついにラストの感動のステージへと進むのですが、音楽シーン、そのあいまに延々と入る芝居、モブシーンなど、大変な場面の連続でした。さらに……私が考えていたライブシーンの撮影プランは、もの凄い数のカット数。

案の定、撮影は夜遅くまでかかってしまいどのカットを捨てるか?というところまで検討せざるをえない状況に追い込まれました。

「紀彦が絶唱しているバックショット」。これを観客の姿を見せずに、光と闇だけで表現するスペシャルカットです。ストーリーに影響を及ぼさない唯一のカットが、このカットだったため「もうしょうがないか…」と半ば気持ちが諦めかかっていた頃、「皆がこのカットを実現しようとがんばって仕込んでいる」という話を聞いて「なんとか撮りきろう!」と自分を奮い立たせることができました。結果的に、その「紀彦のバックショット」は、素晴らしい画になり、編集時に、この映画のファーストカットにしようと思い至ったのです。

この大胆な変更をラッシュでスタッフに見せた際には、皆驚いて、なかには反対する声もありました。しかし、いつも静かに、冷静にことを見守ってくれていた猪本さんはこの時「かっこいい。この方が良いと感じた」という言葉を下さり、勇気をくれました。そんなふうにして、この『たった一度の歌』は、静かな猪本さんの思いやりと、満ち溢れるアイディアによって命を吹き込まれていったのです。

 

 

 

 

 

 

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