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Fixed frame on the dolly~水野尾信正さん追悼文〜「映画芸術」449号より

 2014年7月下旬、奥様からのお中元の礼状で3月22日に水野尾信正さんが永眠されていた事を初めて知りました。仕事の話は、家庭では一切しない方だったので、関係者を呼ばずにご家族だけで葬儀を執り行ったそうです。 

 お亡くなりになった3月22日は、京橋フィルムセンターで大森一樹監督作品が特集されていて、水野尾さんが撮影された映画『テイク・イット・イージー』『満月 MR.MOONLIGHT』、ドラマ『女優時代』などが偶然にも上映されていたそうです。 

 私と水野尾さんとの出会いは、31年前の大森一樹監督『すかんぴんウォーク』(84)でした。サード助手の私の仕事は、毎朝、真っ白な手袋を手渡す事から始まりました。おしゃれに紳士帽をかぶり、こみかみに力を入れてパン棒を握りキャメラを覗く姿は、大柄なこともあり、どの監督よりも貫禄がありました。テストを重ね、「レールを敷いて、移動車でいこう。」となり、本番になると「ん〜、動かんでよい。」とキャメラがレール上でフィックスになることがあり、驚きました。水野尾さんは、余計なカメラワークをせず、何よりも芝居を重視する人でした。 

 元々は、監督志望だったのが、日活に入社したら、いつのまにか撮影部に配属されていたそうです。助手時代、野村孝監督『拳銃は俺のパスポート』(67)峰重義キャメラマンのもとでのこと、B班として、チーフの森勝さんとセカンドの水野尾さんが、横浜港の早朝実景のために港内の食堂で前乗りして待機している間、「することがないのでビールを呑みたい。」と言いだした水野尾さん。制作部の「好きなだけ飲んでいい。」との一言を聞くなり、飲むわ飲むわ。気がつけば朝になるまで一人で21本のビールを空けていたのには制作部もびっくり。しかも、それだけ飲んでもケロッとして実景撮りをさっさと終え、そのまま何事もなかったかのように本隊に合流していた水野尾さんの豪快っぷりに、森勝さんは、「キャメラの事では文句をいって喧嘩ばかりしていたが、この時ばかりは感心した。」とおしゃっていました。無類の酒好きな豪傑ぶりからか、いつしか「ゴンさん」と呼ばれて、みんなから慕われていたそうです。 

 水野尾さんは、70年代のロマンポルノで一本立ちして、その後、一般映画にも進出し、相米慎二監督のデビュー作『翔んだカップル』(80)を担当することになりました。演出に没頭する相米さんは、カット割りが出来ず、水野尾さんに相談したところ、「カット割りせず、いけるところまでいけ。」と返答され、後の作品にも受け継がれていくワンシーン・ワンカットの長回しのスタイルが、この時に確立されたようです。 

 『団鬼六・美女縄化粧』(83)でセカンド助手に昇格した私は『テイク・イット・イージー』(86)で初めての海外ロケ、ニューヨークへ連れて行ってもらった事もあり、思い出深い作品でした。函館の金森赤レンガ倉庫ロケでのこと、当時ヒットした『ストリート・オブ・ファイヤー』のような街並みをオープンセットで再現しました。大森一樹監督と水野尾さんは、キャメラのメインポジションを決めるのに「あぁでもない、こうでもない。」と5尺イントレ プラス 3尺イントレの上で相談しています。キャメラを180度逆向けに返し「いや、違う。」とイントレを左に右にと移動してみます。そして2時間が経過し、5尺イントレをはずして、3尺イントレ上に三脚のビッグをハイハットに変えたところで「これで、良し!」と落ち着きました。私は3尺イントレ上のハイハットなので、キャメラが覗きづらいだろうと、「イントレどかして三脚立てますか?」と提案しましたがガンと動きませんでした。 

 芝居重視の画づくりをする反面、作品に沿って技巧的な画づくりをする事もありました。『女高生・天使のはらわた』(78)の冒頭、ナイフのギラつきを強調したモノクロハイコントラスト映像。『天使のはらわた・赤い教室』(79)でのドラム状のミラーがぐるぐる回る、歪んだ女体の官能的な描写。水野尾さんは、ロマンポルノでの自由な発想から培った、色々なアイデアを持っていました。私がチーフとしてついた『バトルヒーター』(89)での人食いコタツの電熱部分のグローや、『満月 MR.MOONLIGHT』(91)のタイムスリップ場面での祈祷師のグローする杖は、自転車の反射板(スコッチテープ)を利用しました。これもロマンポルノ作品でのアイデアのようです。 

 それから、話しかけやすい人柄か、現場の段取りなどを下っ端の助監督からよく相談されていました。その時「わしゃ。知らん。」と、とぼけて答え、困った助監督に「良きにはからえ。」とワザと突き放しました。私に対してもそうでしたが、自分で考えて行動しろと言っていたのではないかと思われます。私のセカンド時代は、先を読んで35mm単レンズを言われる前に自分で選んでキャメラにつけました。水野尾さんに覗いてもらうと「違うよ。ここはもっとワイドの25mmだよ。」と指摘され、画角やサイズなど芝居における被写体との距離感覚を教えて頂きました。 

 『水野尾さん、あなたのおかげで、私のキャメラマンとしての資質を高めることができました。出会いに感謝しております。私もジブクレーンをレールに乗せておいて、本番ではフィックスにしてしまう事が、時々ありますよ。』

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